14.母親は人間の皮を被った悪魔だった
ガチャ
リビングの重い戸を開けると、母親と晃の姿があった。
今夜はお鍋だ。
私はおそるおそる、自分の席に着く。
「いただきます‥」
私が手を合わせてそう言ったその時だった‥
「みて」
母親はそう言い、顔の横に左手を持っていき、左手の甲をこちらに向けた。
母親の左手の薬指には宝石が光っていた。
「この指輪、今日晃にもらったの。いいでしょう。今日はそれで機嫌がいいから、あんたのこと呼んであげただけ。明日からはまたいつも通りだから。」
耳を疑うようなセリフが、私の鼓膜を揺らした。
母親はそう言って、私を嘲笑っていた。
嗚呼‥私が馬鹿でした。
どうしてこんなにも残酷な人間を少しでも信じてしまったのだろう。
どうしてこんな残酷な人間が私の親なのだろう。
指輪をもらって機嫌がいい?
だから私を呼んだ?自分の気分で?
明日からはまたいつも通り‥?
馬 鹿 に す る の も 大 概 に し ろ
ものすごい怒りがこみ上げ私は震えていた。
悲しみ
怒り
もうなにがなんだかわからない
ただ、私は母親を信じた‥
もしかしたら仲直りができるかもしれないなんて‥そんな浅はかな考えを持っていた自分がとても恥ずかしくて奈落の底に突き落とされたような気分だ。
私は本当に馬鹿だ。
大馬鹿やろうだ。
この人間は、そんな人の気持ちをオモチャにして踏みにじるような‥悪魔のような人間。
人間の皮を被った悪魔だ。
久しぶりに食べた鍋の味は砂の味がした。
私は言葉を交わすことなく、早々に自室に戻った。
「でもそれって、お母さんが折れてるのかもしれないよ?自分から謝るのはできないからごはんに呼んで仲直りのきっかけを作ろうとしているんじゃない?」
友人の言葉が蘇る。
普通なら、そうかもしれない。
だけどこの女が普通の感覚を持ち合わせているはずがなかったんだ‥
私は声を殺して、泣いた。泣いた。泣いた。
枕に顔を押し付け窒息するくらい‥
泣き尽くした。
涙は枯れ、そして私は、決意した。
「この家を‥出よう」
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